CNo.0001
読了予想時間:約10分
この文章はもこの動画を本に作成しています。
死にたがりの吸血鬼 #1
吸血鬼。
という存在を聞いたことがあるだろうか。
いや。…誰だってあるだろう。
だが、存在は知っているもののみんな、実在はしないと考えている。
だが、それは違うのだ。
吸血鬼は存在する。僕はそれを知っている。
なぜなら、僕は僕らの家系は代々吸血鬼という存在を支えてきた一族だから。
…まあ、といっても。
代々そういうことが言われているだけで僕自身吸血鬼を見たことは、ないのだけどな。
父親曰く、吸血鬼はもう全員死んでしまったらしい。
なぜかは不明。
まあ正体を現していないということはそういうことなのだろう。
そんでまあ僕が今何をしているのかというとぶっちゃけ普通の生活を送っている
別に僕らの家系は吸血鬼を支えていたってだけで体は単なる人間だ
いやまぁちょっとだけ異なる部分もあるけどほとんどは人間と同じだ
ゆえに僕の親とかは普通に会社員をしていたりした
もういないわけだが。
「…ふう」
散歩していたら気づけばこんな所にまで来てしまった
…夜は好きだ。
心が休まるし、落ち着く。
昼が嫌いってわけじゃないのだが、太陽の光が眩しくて苦手だ。
「…帰るか。」
外の空気も堪能したし、今日の散歩はこのくらいにしておこう。
帰り道突然スマホがなった。
僕は電話に出る。
「はい、こちら又理」
「おぉ、出た出た。おはよう又理」
「……何の用」
電話の相手はクラスメイトの霧雨魔理沙という少女だった友達と言えるべき存在なのかは、
イマイチわからないが…まあ知り合いということにしておこう。
「いや暇だから電話した。」
「そんなことでわざわざ電話をしてくるんじゃねぇよ」
「まあまあいいじゃん。どうせ又理だって部屋でゲームでもしていたんだろ?」
「生憎と日課の散歩中だ。」
「老人みてぇな事してんだなぁ。」
「散歩は老人しかしないっていう偏見やめろ。」
「意外と散歩もいいものだぞ。」
「そうか、疲れるだけじゃないか?」
「分かってないなお前。」
「散歩の良さなんか今時誰も分からないと思うぞ。」
「時代遅れなんだよ、そいつら」
「いやいや、絶対に又理の方が時代遅れだから。」
…そうなの?
散歩って最近そんなに流行ってないの?
普通にゲームするよりも好きだったりするんだけど。
「つかそんなくだらないことでかけてきたんだったら切るからな。」
「えー、ちょっと待てよ私が暇になっちゃうだろ。」
「お前が暇かそうじゃないかなんてこっちからしたらどうでもいいからな。」
「それじゃあな。」
と相手が何か言う前に強制的に電話を切る
暇なんだったら散歩したらいいのに。
リラックスできておすすめなのに、
なんでしないかなぁ…謎だ。
そんなことを考えているうちに家の近くにある公園までたどり着いていた。
「……トイレ行くか」
と、公園に入る。
……と、そこで。ベンチで横たわっている少女を見かけた。
「どうしてこんな時間に」
家出少女かなんかだろうか。
だがこんなところで寝ていたらヤバイことに巻き込まれてしまう可能性がある。
ぶっちゃけ、他人なのだから関わらなければいい話なのだが、なぜか僕はその少女の方に向かっていた。
まぁ、いわゆる偽善ってやつだ。
だがまぁ、やらない善よりやる偽善とも言うし、この選択肢が正解だろう。
と、僕がその少女に手を伸ばした。
その瞬間だった。
少女がばっと跳ね起きて僕の方に突進してきた。
突然のその行動に僕はどうすることもできず馬乗りにされてしまう。
その時僕が見えたは真っ赤な目に鋭くとがった歯。
「あっ。」
言葉が出なくなる。
その時親父の言葉を思い出す。
吸血鬼の特徴は、血のように赤い目と、そして尖った歯。
だったら、もしかして…この少女が…。
と、僕が目の前の少女の正体を見破ったその瞬間。
その少女は、なぜか馬乗りを止めて立ち上がった。
「ごっ、ごめんなさい!その、思わず押し倒しちゃって…。」
手がズキズキする。
どうやらとんでもない力で押し倒されてたみたいだ。
…こんな少女からこんなにも強い力が出せるとは到底思えない。
じゃあ、この子はもしかして…
「君は…その、間違ってたらごめんけど、吸血鬼…ってやつ?」
「えっ…。」
彼女から出てきたのは、そんな素っ頓狂な声。
「…どうして、わかって…」
「ごめん、動揺していて適当に言った……けどそのとがった歯と赤い目」
「……コスプレとかじゃないよね、多分」
一応僕の身分を隠しておいた。僕の先祖は吸血鬼を支えてたらしいけど、
生憎と僕は吸血鬼を支えようとは思わない。
僕の人生は、僕のものだ。
吸血鬼なんかにくれてやりたくはない。
「…あー、じゃあ今の言葉は失言だったか…」
吸血鬼がつぶやく。
今の発言……確かにそうだ。
あれがこの少女が吸血鬼だと証明させている。
「それで…聞きたいんだけど」
とりあえず質問があったので尋ねることにする。
「どうして押し倒したのにもかかわらず僕を襲わなかったんだ…?」
血に飢えてたのかどうかわからないけど、
あの時のこの子は間違いなく僕を襲おうとしていた。
だが途中でそれを止めた。
なぜなのか。僕はそれを知りたかった
「えっと……その、あの」
「まず、吸血鬼って存在を本当に信じてるの?」
「…さっきの君の姿をいたら信じるしかないと思うんだけど」
「そ、それもそっか」
「その、あんまりにもうお腹が減ってたからその」
「僕の血を吸おうとしたってこと?」
「……うん」
申し訳なさそうに頷く少女
「……だったらなんで吸わなかったんだ?」
「フラン……吸いたくないから」
……フラン?
と眉を顰めたがすぐに理解する。
なるほどこの子は自分のことは名前でいうタイプなんだな。
「吸いたくないって、血を?吸血鬼なのに?」
「……うん」
「もしかして、僕の血が汚そうだったからとか?」
「そ!そういうわけじゃない!」
「ただ……私の事情で……」
「事情ってどんな」
「っと、それを聞くのは今この場ではやめておこう」
「…どういうこと?」
「見た感じ、身を隠さないといけなさそうだし僕の家で少しの間過ごすといい」
「だっ!駄目だよそれは!」
「どうして?」
「だ、だって! さっきみたいに理性を抑えきれなくなったら思わず貴方の血を……」
「……ここにいるよりかはマシだよ。ここにいて限界がきたらいつか関係ない住人を巻き込むことになる」
「けど…そんなの貴方だって関係ない住人の一人じゃん…」
「…僕は、関係ある」
「どうして?」
「…この場で、君と出会ってしまったから」
よくもまあこんなにも嘘がベラベラと出てくるもんだ。
どうして僕がこんなことを言い出したのか。
結局のところ、吸血鬼の問題は僕の問題みたいなもんだ。
仮にこのまま放置したとして、関係ない住人が血を吸われて死亡なんてニュースが出てきた時には…。
考えるだけでも罪悪感が湧く。
それゆえに、この吸血鬼は僕が引き取ろうと思ったのだ。
「僕は構わないから、とりあえず行くよ」
「う、うん…」
フラン、という少女もそっちのほうがいいと思ってくれたのか、後ろからついてきてくれた。
果たして、この選択が吉と出るか凶と出るか。
今の僕には、知る由もない。
そういうわけで。
僕の自宅にたどりつくことが出来た。
「……まぁ、僕の部屋以外は適当に使ってくれて構わないから」
「その……この家に家族とかは?」
「いない、一人暮らしだよ」
「家族は…どこにいるの?」
「…もう亡くなってる」
「ごめん」
「別にもう過ぎたことだからいいよ」
「それにしても、なんだか吸血鬼なのに狂暴じゃないんだね」
「逆に、どうして狂暴だっていう偏見を持ってたの?」
「…なんか、そんな感じするから?」
「吸血鬼はみんな狂暴ってわけじゃないよ」
そこで初めて、少女はちょっとだけ笑みを浮かべた。
「なんだか、その発言的に他にも吸血鬼がいるように聞こえるんだけど」
「いるよ、以前より数は減ったけどそれでもまだ吸血鬼は存在してる」
「みんな、細々と暮らしてるよ」
「お腹が空いたら人間じゃなくて輸血パックを盗んだりしてお腹を満たしていたりする」
「…なんで輸血パック…堂々とかみついたりしないのか?」
「だって無関係な人を噛んでも可哀想なだけでしょ?」
「それに今私たちが人間に喧嘩を売って勝てる見込みなんてほとんどないからね…細々と暮らすしかないんだよ」
「…そういう事情があるのか」
意外にも親から伝わった内容とは違っていた。
吸血鬼はかなり残酷で逆らえば血を吸われて殺されたりすると聞いたことがあったんだが…。
まぁ、時間が経てば歴史は改ざんされるもんだし、しょうがないのかな?
「それで本題なんだが…」
「…うん」
「その、君の事情ってのは一体何なんなんだ?」
「……フランの事情はねひと言で言うと死にたいの」
「死にたい?」
「フランたち吸血鬼は人間にとっても害悪だし、それにこの世界はフランたちにとって生き辛い」
「だったら、吸血鬼のフランなんて死んだ方がマシじゃないかなって思って」
「…だからフランは今血を飲むのをやめている」
「飢えで死ぬって事か?」
「…うん。日光に浴びても一応死ぬことはできるんだけど、怖くて」
「あれ、めちゃめちゃ痛いらしいし、それがめっちゃ続くらしいからその死に方は嫌だなって」
「だが、飢えも時間がたてばたつにつれて辛くなるもんだろ」
「けど、痛いのよりはマシだと思ってるから」
「……なるほど。じゃあ君は自分の楽な死に方を選んでるって事か」
「…そういうこと」
「…ふむ」
死にたがりの吸血鬼…か。
初めて会った吸血鬼がこんな変な奴だとは思わなかったが…まぁ凶暴な吸血鬼よりかはマシか。
「…じゃあ、僕が君の最後見てやる」
「けど…フラン心配なの」
「いつか僕に噛み付く事…とか?」
「そう…さっきみたいに自制が効かなくなったらどうしようって」
「…僕も一応護身用に何か持っておくことにするよ」
「…お前がもし僕に襲ってきたら僕は遠慮なく君を殺す。それでいいな?」
「…それが、一番いいかな?」
「…ずっと寂しかったんだよ。ずっと一人で飢えを耐えて、ずっと一人でここまで生きてきて」
「……」
「だから、誰かと一緒に居られてそして誰かに最後を見てもらえて…」
「それがフランはとっても嬉しい」
「…そうか」
「自己紹介がまだだったね。フランドールスカーレット。それがフランの名前」
「それがフルネームか……長いな」
苦笑して
「…僕は、三だ」
苗字を言うと僕の家計がバレそうな気がしたので伏せる
「三、か。いい名前だね」
「お世辞はよしてくれ」
「とにもかくにもよろしくな、フラン」
「うん!」
と、まぁ。
こんな感じで始まった吸血鬼との共同生活だが…果たして。
僕は彼女から襲われた時、きちんと彼女を殺せるだろうか。
いや、殺さなくてはならない。
だって、そうしないと。
僕が、殺されてしまうのだから。
0 件のコメント:
コメントを投稿