死にたがりの吸血鬼 #2

2021年6月27日日曜日

死にたがりの吸血鬼

t f B! P L

CNo.0002
読了予想時間:約10分
この文章はもこの動画を本に作成しています。

死にたがりの吸血鬼 #2

「ふむ……」
リビングにて僕はとある本を読んでいた。
吸血鬼に関しての本だ。
親が又理の一族であるならば必ず読んでおけといわれていたがあまりにも分厚いので読んでいなかった。
みんなだってそうだろう。
めちゃめちゃページ数の多い本とか見たく無くない?無くない?
…まあ、そんな本を今僕は読んでいるわけなのだが。
だが意外にも面白い。
多分、近くに吸血鬼がいるから自分自身も興味が湧いたからなんだろうなと思う。
「…うーむ」
そして、読んでいるうちにだんだんとわかってくることがある。
それは過去の吸血鬼は太陽の下にいても死ななかったということ。
この点はあの吸血鬼、フランが言ってたことと異なる。
あいつは太陽の下にいると死ぬと言っていたが、
この書物では太陽の下では死なず人間を制圧していたと書かれてある。
「…うーん…どういうことだろう」
ここ数百年の間で吸血鬼が太陽に弱くなったのか、
それとも、太陽を克服する何かがあったのかわからん。
それにいろいろと文字が潰れてたりして後半の部分は読めるもんじゃなかった。
この矛盾尋ねるわけにもいかないだろう。
この情報は僕の先祖が吸血鬼の側近だから知ることができた情報だ。
これをフランに聞くとどうしてそれを知ってるのって話になる。
それとなく聞くのがいいかもしれないが、生憎と僕は不器用だからそんなことをしようとしたら怪しまれるだけだ。
そんなこんなで僕が1人で悩んでいると
「どうかした?」
「いや、何でもない。風呂はどうだった?狭くなかったか?」
「すごい良かった…当分体を洗うこともできてなかったから本当にありがとう」
「…風呂貸したくらいでそんな感謝されるとはな…。まあお気に召したのなら幸いだ」
「…えっと、あの…さ」
「なんだ?」
おずおずとフランが訪ねてくるので僕は小首を傾げながら問い返した
「何かお手伝いできることとかない…かな」
「別にない」
「そっ、そんな早くに否定しなくっても!」
「今は休んでおけって言ってるんだ。どうせずっと外で暮らしてたんだろ?」
「死ぬまでここにいるんだったらゆっくり休んどけ。そっちの方が僕の気持ちとしても楽だ」
「…なんかでも、申し訳なくって」
「……」
何か、お手伝いか。
ぶっちゃけ本当に何もないんだよな。
「…まあ、おいおいできたら頼むことにする。それでいいか?」
「うん」
…なんか調子狂うなぁ。
書物で見た吸血鬼というのはやはり残忍で人、間を下僕のように扱うと聞く。
だがこの少女からはそんな気配を感じない。
僕を油断させているんだろうか。
…いやそれはないか。
だって、僕から血を吸うだけだったらあの公園でできたからだ。
…だからフランが何か思惑を持って行動してるって事は多分無いだろう
あくまでも、多分だが。
こんなことを考えているとフランが口を開く。
「ちなみにフラン、分かってると思うけど、夜行性だから朝はぐっすりと寝るよ」
「…逆に朝に活動してたらヤバいやつだろ。カーテン全部閉めて真っ暗な部屋にしようと思うんだが、それでいいか?」
「まあ、棺みたいに完全に太陽から守ってくれるようなものもないだろうし、それでいいや」
「多分そのくらいだったら大丈夫だと思うから」
「吸血鬼って本当に棺の中で寝たりしてるんだな…というかお前って朝いつもどうやって過ごしてたんだ」
「朝は地下にいたりしたよ」
「地下?」
「うん、例えていうなら下水道だったり洞窟だったり」
「ああいう場所って太陽の光入らないからすごく便利なんだよね」
「…なんか臭そうだな」
「さすがにそれは失礼だよ。一応お風呂じゃないけど、水を使って洗ってたんだから」
「まあそれだったらまだ清潔なのかもな。けどよくそんな場所で寝るな、洞窟だとか下水道だとか」
「いやー、でも下水道は匂いがキツイからあんまり寝たことはないかな」
「下水道でしのいで違う場所で寝るのはよくあるけど」
「そう考えると洞窟とかの方がまだマシなのかもしれないな」
「マシなだけだけどね。やっぱりこういう家で寝るのが一番いいかなぁ」
「まあ、普通に洞窟のほうがいいなんて言われたら叩き出してやるしな」
「そんなこと言うわけないじゃん、仮にも命の恩人だよ」
「いつから僕はお前の命の恩人になったんだ?」
「えっ?どう考えても命の恩人じゃない?」
「死にたがりの吸血鬼の命の恩人ってなんかすごいな」
「うーん、じゃあ正しく言えば死ぬ場所を提供してくれた人?」
「…まあそれが正しいかもな。というか吸血鬼ってどれくらいで死ぬんだ?」
「さあね」
「わかんないのかよ」
「だって、気に飢えて死ぬ吸血鬼なんて聞いたことないもん」
「みんな我慢できなくなって結局血を吸いにに行っちゃう」
「お前はそれになんとか耐えてるってことか?」
「まあそういうことだね」
「なんとか今耐えてるけど、前みたいに自制が効かなくなることもあるって感じ。だからその時は…」
「分かってる」
その時は、僕が殺すそういう約束だ。
それにしても僕がフランを殺したとして、それは殺人ということになるのだろうか。
けど、フランはおそらく戸籍とかもないだろうから。
まず、行方不明になっても死体さえ見つからなかったら何も事件にならないんだろうな。
「そういえばお前夕飯とかいるのか?」
自分の夕食を作ろうとして気づく
「必要としないね」
「じゃあ飲み物とかは?」
「うーん、いるにはいる」
「じゃあなんか用意しとくよ」
「あ、ありがとう」
「どうせ血を吸わなかったら結果的に死ぬんだ。別に水分くらい構わないだろ」
「…その、ありがとう」
「そんでまあフランふには余ってたオレンジジュースを飲ませてやった」
「曰わくこんな美味しい飲み物初めて飲んだらしい」
大げさなと思いながらも僕もオレンジジュースを人生に一度も飲んでなくて、
そして初めて飲む時があれば多分フランと同じ感想を言うんだろうなとそう思った。
そして、風呂やら飯やら終わらせて、僕は自室にて横になっていた。
吸血鬼との共同生活。
過酷なもんだと思ってたが、意外と楽だった。
フランが良い子っていうのもあるんだろうけどな。
けど、死にたがりの吸血鬼か。
死ぬために生きてるってどう感じながら生きてるんだろうなと、
僕はゴロゴロしながらそんなことを考えるのだった。
次の日、リビングに下りてくるとなぜか朝食が置かれてあった。
はて、前日に作り置きでもしてたかな?
と考えていたがテーブルの上にある紙を見つけてそうじゃないと気づく。
その紙にはこんなことが書かれてあった。
『ただ住まわせてもらうのも申し訳ないから朝食作ってみた!美味しくなかったら捨てて!』
字は書き慣れてないのか結構見にくかったりしたが何とか解読はできた。
別にそんなかしこまらなくてもいいのにな。
朝食は多少見た目は悪いが普通に美味しそうだ。
とりあえず一口含んでみる。
「…及第点だな」
美味しいが何か足りないといった感じの感想だ。
だが、不味いわけじゃないし残さず食べる。
そのときふと数年前親に朝食を作ってもらってたことを思い出す。
懐かしいな。
朝降りてきたら朝食があって、親に行ってらっしゃいって言ってもらってたっけな。
「はぁ、悲しくなってくるな」
過去の事を思い出して少しだけ泣きそうになる。
僕もまだ高校生。
親のことを思い出して泣きそうになるくらいいいじゃないか。
って…誰に対して言ってるんだって話だな。
「ごちそうさま」
そうこうしているうちに朝食を食べ終わり、洗い物を済ませてバッグを背負う。
「……」
考えてみたらかれこれ行ってきますなんて言ってなかったな。
返してくれる人がいなかったから。
必要がないと思ってただが家には今フランがいるし。
もしかしたら返してくれるのでは?
と、思ったが考えてみたらフランは今寝ている。
今日も、言う必要がなさそうだなあとそう思った瞬間。
「いってらっしゃい」と遠くから声が響き渡った。
おそらくフランが自室から叫んだのだろう。
よく僕が学校に行こうとしたのがわかったな、と思いつつ
「行ってきます」と僕は返してそして学校に向かうのだった。
昼休み僕は屋上にいた。
「でどうして昨日電話を切ったんだよ」
「気分」
「こっちは大変だったんだぞ」
「何が大変だったんだ」
「暇で自殺しようか考えた」
「知るか」
いやマジで知るか。
「…僕もヤバい事が起きたからノーカンってことで」
「なんだ?ついに趣味の露出がバレたのか?」
「誰もそんなマニアックな性癖してねーよ。なんだと思ってるんだ」
「露出狂」
「見たこともないくせによく言えるなぁ!?」
「だってそんな感じするし」
「人はそれを偏見っていうんだ。やめた方がいいぞ魔理沙」
ちなみに、こいつの名前は霧雨魔理沙。まあ知り合いだ。
「なんかよ、人生ってつまんねーよな」
「そうか?」
「いや、つまらんつまらん」
「だって、繰り返しばかりじゃないか」
「なぁなんで人は生きてるんだ?生きるために働くなんてバカバカしくないか?」
「だが、生きるために働かないと死ぬのは自分だぞ」
「じゃあ、なんだ?私らの生きる意味ってのは働くことなのか?そうじゃないだろ」
「働く以外にも人生じゃやることある。恋愛とかそうだろ。ああいうことをしたら幸せだって聞くぞ」
「いい男がいねぇ」
「目の前に居るじゃないか」
「ごめん論外」
「こっちからも願い下げだよ」
「なんかこうつまんないからさ地球外生命体とか来ないかな」
「自分の頭の中だけで妄想しとけ」
「なんだよ釣れないな」
「最近じゃあお前面白いことあったのか?」
「あった」
「あったのか!? 何があった!?」
「彼女ができた」
「マジかよ!」
「嘘だよ」
「嘘かよ!!!!!」
などと霧雨魔理沙と雑談をするきっとこいつは驚くだろうな。
最近吸血鬼と共同生活を今僕がしてるなんて知ったら。
…まあ、まず信じるわけがないか吸血鬼なんて一般人からしたら架空の存在なわけだし。
と、昼食のコンビニ弁当を食べながらそんなことを考えるのだった。
気がつけば、日が暮れていた。
多分フランは起きてるだろうしさっさと帰らないとなっと思いながら帰る足を速める。
そして、家の前にたどり着いて僕はドアを開けて入った。
「…ただいま」
だが返事はない
ざわりと胸がざわついた。
現在の時刻は午後7時。
さすがに起きてるはずだったが、なぜ返事がない。
恐る恐る玄関を進んでリビングに向かう。
そして、リビングにたどり着き、僕はフランがうずくまってるのを発見した。
「……フラン?」
僕がそう呼びかけるとフランは立ち上がって
「………ねえ」
と甘い声で囁いてやがて僕に対してこう告げた。
「吸っていい?」
その問いに僕は返事をすることはできなかった。
頭の中には『自分は彼女を殺せるのか?』という葛藤に苛まれるのだった。
 

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